とっておきのホテル
第16話
ル・グラン クー



大人の休日のためのスキーリゾート


すべての音を吸収しそうな雪に覆われたメリベルの夜がはじまる。

 フランス屈指のスキーリゾートでヴァージンスノーとともに年末を過ごした。ピチピチした娘さんのような香りに魅せられ、「ルーセット・ドゥ・サヴォア」の白を一人で1本あけてしまった。脳みそが酒浸しになっており、多少足元がふらふらするが、まあ、いいか。勢いあまって酔い醒ましも兼ね、ゴンドラに乗って着いた先は標高3千メートル、36度の大パノラマが天地にひろがっていた。アルプスにひろがるトロアヴァレーのゲレンデ全長距離はなんと6百キロ。三つの谷を意味するトロアヴァレーにはクルシュヴェル、メリベル、ヴァル・トランス、レ・メニュイールの4つのスキー場があり、昨日はメリベルからクルシュヴェル、バル・トランスへと滑ったが、往復でその距離は約7千キロ。


世界からスキー留学子女が集まる。

ランチはスキーウエアで。

雪が降ったらゲレンデからプールへ。

 瀟酒なシャレー(別荘)が軒を競い合うメリベルで宿泊したル・グランクーの創業は1950年。スキーをはいてゲレンデまでわずか30秒というのもうれしいが、やはり第一級のサービスには心打たれるものがあった。「おもてなしと山と海で遊び仕事するのが、わたしたちの生きがい」と、爽やかでほのぼのとした笑みをこぼすのは、ディレクトリスのジョアンナ・ゼッドさん。彼女は夫のヤンさん(ディレクター)とここで働いているが、雪が解けコートダジュールに青い空が戻ってくるころには夫婦揃って移動。5月から9月までは南仏の人となるのである。 「夏は太陽と海、冬はアルプスと雪よ」
これからゲストの案内を兼ねてスキーにゆくジョアンナさんは、仕事を趣味として楽しんでいるようであった。


冬は純白の雪山、夏は紺碧の海辺へ職場を変える総支配人のゼッド夫妻。


 このホテルは雪が消えるころに眠りにつく。つまり4月7日から12月13日までは休館となるわけだ。部屋数は38ツイン、3スイートでプール、サウナももちろん完備。
 レストランのメニューは170フランから330フラン。通常スキーリゾートでは食事込みの場合が多く、ハーフボード(2食)、フルボード(3食)となっている。このホテルのハーフボードは1500〜2200フラン。昨夜戴いたメニューはオマールエビとホタテのサラダ、トリュフとホロネギの暖かいドレッシング添え、シタビラメのホップ風味、赤い果実入り木の葉仕上げのビスケット。すべては、するりと僕の喉の奥へ消えていった。ソムリエがすすめてくれたワインは、「シャトー・ドゥ・リパィエ97年」。辛口の白で、滋味にあふれたサヴォアの逸品であった。
 今日は午後から雪がしんしんと降りはじめた。ホテルのゲストたちは、早々にスキーから戻り、数組の男女がサロンでなごんでいた。おしゃべり、読書、あるいは絵はがきを書いている。うーん、これぞ大人の休日か。
 音がすべて純白のヴァージン・スノーに吸い込まれる。シャンパーニュの泡が雪の結晶のようにグラスで踊っていた。メリベルのミレニアムは、これからしずしずと始まろうとしている…。


LE GRAND COEUR
73550Meribel France
TEL:33-04-79-08-60-03
FAX:33-04-79-08-58-38

ボーダー
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