とっておきのホテル
第5話
ロード・バイロン

HOTEL LORD BYRON


オーナー
  カップ
アメデオ・オッタヴィアーニ氏の世界は
中世ヨーロッパの趣で満ちていた。
  オーナー自慢のリチャード・ジノリの
カップ。

「マヨリカだけではなく、リチャード・ジノリの特注鉢をお見せしましょう。マヨリ カにはないうつくしいストライブのはいったシェイプですよ。」 オーナーのアメデオ・オッタビアーニ氏がオフィスからもってきたのは、新古典主義様式の見事な鉢で あった。
「これで花を生けるのが趣味でしてね。なによりもこの肢体が美しいですね。」と 彼はほのぼのと笑った。
 オッタビアーニ氏は、フィレンツェでもお世話になったホテル・リージェンシーの オーナーでもあり、イタリアを代表する高級ホテルをほかにも組織するオッタビアーニ・ホテルズの会長である。「世界各国を歩くのが好きで、さまざまな国を訪ねるた びに陶器や絵画を買い求めてしまいます」と語る。若いころは医師を志していたオッタビアーニ氏 だったが、「大学の休日を利用して世界を歩いてみてはどうか」という父親の奨めも あってイタリアを飛び出した。ホテル経営に乗り出したのは一九六一年のこと。

ジノリ
リチャード・ジノリの器がとても映える。
 ペリオリ丘陵に建つこの館は、ホテルというよりプライベートクラブのような安ら ぎがある。「自分の家と思ってほしいです。私の憧れは私邸のようなホテルなのです。王侯貴族が個人で楽しむために泊まるホテル、という雰囲気を出したかったのです」 というオッタビアーニ氏の言葉は、かのホテル王セザール・リッツとも同じ意見であり、ほかの気持ちのよいホテルでもよく耳にするうれしい言葉である。

 気品のある調度品、豪華だが落ち着いた室内装飾、繊細な動作でサービスをするホ テルマンの接客態度など、すべて一流の二文字で統一されているが、やはり特筆すべ きは、食器類、ワインの吟味、選択であった。
「食事だけで訪れる方、あるいは結婚披露パーティーなどにもご利用いただいており ます。イタリア、いや世界随一ワイン、食材、食器そして料理を味わってください。いやいや、ロード・バイロンの魅力はまだあります。散歩をかねてエトルリア美術に 触れることができるのもウチの魅力のひとつでもあるのです」を胸をはる給仕長であった。

客室  ギャルソン
モダンとプリミティブ
の相性が絶妙な客室。
繊細なサービスがゲストを待っている。

 たしかにエトルリア美術の宝庫であるヴィラ・ジュリア博物館(MUSEO ETRUSCO DI VILLA GIULIA)までは徒歩でいける。昨年もこの美術館には訪れているが、今回も是 非じっくり鑑賞したいものがある。七万五千点を上回る膨大なコレクションにも惹か れるが、僕の興味はただひとつ、前六世紀後半のチェルヴェテリの墓から出土した「夫婦半臥像」である。若い夫婦が幸せそうに肩を並べで棺に座っている。婦人が身に つける帽子、靴、そして服、どれもが斬新な意匠であり、それにしても二五〇〇年前の作とはとうてい思えない。力まかせの「ローマ」を観光するより、まず、エトルリ アの世界を知ることが、イタリアとの新しい付合い方だろう。感性が涸れそうになったパリ・コレのデザイナー諸氏よ。じっくりと「夫婦半臥像」を鑑賞なされ。
と、トスカーナのワインを浴びながらひとり気を吐いていた。

ホテル外観
イタリア邸宅風の趣でゲストを迎える。


HOTEL LORD BYRON
Via G.de Notaris 5 00197 Rome,Italy
TEL:39-06-322-0404
FAX:39-06-322-0405

ボーダー

とっておきのホテル


世界の職人篇  世界の陶磁器篇  欧州旅籠篇
クリックしてください