もの心ついたころから、わが家ではいつも犬が家族の中心となっていた。耳が右側だけ折れ曲がり、路上ケンカで鍛えたその風貌に「五稜郭のブチ」の異名をいただいた雑種の初代チロをはじめ、えくぼの笑顔が郵便配達のオジサンにうけていた芝犬の2代目チロ、凛々しくも、どこかドジだったジャーマン・シェパードのジョンたちの色褪せた写真を眺めながら、僕は犬によって育てられた「時代の犬少年」のころを今も密かに誇っている……。

  結婚し、東京暮らしで家の確保は男子の一大事業のひとつだが、家探しの第一条件はやはり犬を飼えるアパートであった。幸い犬の散歩に適した外濠公園に面した物件があり、無理な借金をしてまで「犬の館」を手にした。

  昭和五一年の夏も終わるころ、青山ケンネルで熱い熱い視線で僕を一瞥したのがビーグル犬の初代ポチであった。


1976年、公園デビューを終えたころの初代。
嗚呼、オクサンもオヤジさまも若かった……

 

  宇宙にも飛んだスヌーピーはビーグル犬をモデルにしたが、その愛くるしい眼差しは愛犬家ではなくても魅力に思うだろう。初代のポチは生後三カ月のころにわが家の一員となったが、ビロードのような艶やかな毛、優雅に垂れた耳、あたりを圧するような眼光、気品をもって地を踏む足、きりりと弧を描いて天をつく尻尾などすべてが僕の自慢であった。

  彼の生涯は僕の取材旅行中に壮絶な病死で終わった。九歳であった。さすがにポチに代わる新しい犬を飼うことはできず、その穴うめに蒐めだしたのがビーグル犬の陶磁小像。

  いまではたいそうなコレクションとなったが、マイセン焼きの名品であってもしょせん、置物は置物。血が通った生き物とは、おのずとその違いは歴然であった。

 

手前が1996年に撮影した2代目のボク。
奥は1976年に撮影した初代殿。

  犬の魅力は躯全体で表現する豊かな表情──ある時は乙女のようなロマンチスト、また大金で雇った忠実な下僕、場合によってはテロリストのようなあぶない視線を放つこともある──にあるが、あるひょんなことから、ふたたびビーグル犬が家族の一員になった。

  二代目ポチは、先代と違い高貴な若武者のような気品に欠け、路上ケンカはめっぽうだらしなく(田舎のモサに二度も優雅な耳を喰いちぎられた)「外濠のポチ」たる異名はいただいていないが、なんといっても大宗教のもつ懐の深さと庶民的な温もりがあり、見上げたことには人の話を聞く態度が立派なのである。

  人間さまの僕の息子は親の話を一分も聞かないが、二代目は一昼夜でも柔らかなウルウルした眼差しで耳を傾けてくれ、全身全霊をもって応えてくれる。仕事のつまずき、家族間のきまずさ、健康の不調、あるいは僕のよろこびなど共にわかちあえるのが二代目ポチである、と、オヤジさまが長々と口上しております。


左は早朝メシと散歩を催促に、オヤジさまの寝床を威嚇

 

 

    本名

青山アントワンヌ

    原産国

イギリス

    生年月日

1984年8月22日生 オス

    特徴

集団で吠えながらウサギを追い出すワン公として、17世紀ころからイギリスの貴族の間で猟犬(つまり下僕だなぁ)として欠かせなかったらしい。現在ではアメリカ産の13インチ小型ビーグルが人気を集めているが、甲高い声で鳴くため無駄吠えのしつけには人間さまは一生懸命。性格は穏やかで陽気で、自慢の臭覚は特に発達しているよ。

  イラストのなかで友達になりました。旅行にもオヤジさま愛用のMacクンが帯同するので、ロンドン、パリ、さらにケープタウンからアマゾン、アブダビの砂漠までボクは旅してんだよ。旅先で出会った面白いワン公、いや失礼、友達はデジカメで、即、家族や友人にメイルしてるようです。

  狛犬的存在のボクの写真は、旅行中の魔除けであり、お守りでもあると言ってました。
ボクといつも一緒……
オヤジさまはそんな気持ちで毎日を過ごしているようです。

  家族の誰かか外出すると、玄関先で、よくこのように待ってます。
宅急便や郵便局などの人が来ると、尻尾を優雅に振って歓迎しますが、仕事上の来客には無愛想になっちゃうんだ。でも犬が嫌いな人間さまにとっては、愛想がないことはありがたいことらしいですよ。

  初代ポチを動とすれば2代目のボクは静。じぃーと沈思黙考スタイルで、若いころから静かな日々を送っております、はい。

 


毎日駈け跳ねていた外濠公園。
我が家から徒歩、1分だよ。

 

  ここには極上の匂いもあり、ときどきハト殿のパンにもありつけるぜ。4月には桜がいっぱい咲くんだ。でもこの季節の終わりが絶景となるんだ。花が散って一面が桜の絨毯になるんだよ。
家に帰るとき自慢の黒々とした鼻にピンクの花びらがくっついていた。
  念のためだけど、ウンコはオヤジさまが持ち帰っているからね。

 


ボクが熟睡中にオヤジさまさまがオロオロしていた。
朝からなにやら事件かな。
それにしても、あと30分寝かせてて、お願いだから。

 

 

 山小屋で遊ぶようになって10年、これって、いまだなかったボクの攪乱なの???
朝、昼、夕方そして深夜のチョットのチッチも欠かさずボクに尽くしてくれたんだけど。
 高級シニア用のドックフードも、おまけのポテトサラダも喰い昨夜は満足だったが何故かオヤジさまを悲しませたようだな。
悪い夢でも見たのだろうか。いや、原因はアレだよアレ。
「♪ポチィ〜はなんでも知っているぅ〜♪だね。


オヤジさまからのプレゼントだよ。


表紙

夏休みのポチ
 
冬休みのポチ

病床のポチ


 
今月のポチ

mailto pochi asaoka@jpmuseum.com